平滑あるいはマイクロメータースケールの表面構造を有する銅基板を試料とし、フェムト秒レーザーパルス(パルス幅35fs、中心波長800nm、繰り返し周波数1kHz)を空気中で非軸放物面鏡により試料表面に集光照射した。その際、試料は電動ステージに取り付け、常に新しい試料表面をレーザー照射するように十分配慮した。X線発光強度はガイガーカウンタを、x線発光スペクトルはSi半導体検出器を用いてそれぞれ計測した。液晶型空間光変調器を用いてフェムト秒レーザーパルスのチャープ(パルス幅内周波数変化)を制御した上で照射パルスとして用い、上記検出器を用いてX線測定を行った。その結果、励起光強度を0.2mJ/pulse程度とするとき、最短パルス(チャープフリー、最高ピーク強度)照射時にはX線強度が最高とはならず、パルス幅内で周波数変化(波長変化)があるチャープパルス照射時にX線強度が増大することが見出された。この効果はより低い周波数(長波長)が先にくるアップチャープ時により顕著であった。照射するフェムト秒レーザーパルス幅内のX線発生に至る諸過程(イオン化、電子放出・加速、衝突、内殻励起など)がアップチャープで効率よく誘起されていることに起因すると考えられる。また励起光強度を1mJ/pulse程度とより高くすると、X線発光強度のチャープ依存性は前者の場合とは異なり、ダウンチャープ(より高い周波数(短波長)が先にくる)でX線強度がより高い傾向が観測された。イメージング実験により空気のブレイクダウンがアップチャープでより効率よく誘起されることを見出したことから、空気プラズマによりレーザーパルスの一部が反射され、試料基板表面に到達しないことが原因と結論した。
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