公募研究
本研究は、集光レーザーの光圧と界面の特性と空間的に融合させることによって生じる新奇な光-分子結合増強反応場を創成し、その反応場を反映した特有の構造体の作製を主目的としている。今年度は、前年度までに報告した本増強場における高濃度液滴に対して、以下に示す重要な結果を得た。グリシン重水過飽和溶液液膜の固液界面に集光レーザービームの光圧を作用させることにより形成した単一高濃度凸面状液滴に対し、液滴周辺の溶液濃度を求めた結果、液滴内部は初期溶液よりも約2倍高い事が分かった。初期溶液の過飽和度数が1.3であることから、液滴の過飽和度数は2.6程度であると見積もることができ、このような高い過飽和度数をもつ溶液でさえも溶液状態を維持していることから、本液滴形成は液-液相分離を経由している事を強く示唆される。また、新しい光学系を構築することにより液滴の二次元プロファイルを測定することに成功し、この結果から液滴形成は、液面変形を経由した光圧によるグリシンクラスターの光捕捉と集光点に向かう対流による効率的な物質輸送との融合により通常では起こり得ない濃度上昇が達成され誘起された事がわかった。このようなグリシン水溶液における液-液相分離については、これまでバルク条件で実証が試みられてきたがこれまで成功例はなく、本結果は我々が提案する光-分子結合増強反応場特有の現象であると考えられる。グリシン以外にも、他のα-アミノ酸や尿素、塩化カリウムにおいても同様の液滴の形成に成功した。本液滴形成は、集光点でのクラスターの光捕捉により生じたミクロなトリガーが、1億倍以上の体積を持つマクロな物体として現れる光圧特有の新現象と位置付けることができ、光圧科学の新境地を切り開いたと考えている。
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