バンコマイシン耐性腸球菌VREから分離したpMG1型高頻度接合伝達性プラスミドpHTβの伝達機構と接合凝集性についての遺伝学的解析を行った。pHTβで同定した凝集と接合伝達を正に調節するtraBと同一遺伝子はプロトタイプのpMG1上にも存在したが、その変異体はpHTβのtraB変異とは形質が異なっていた。またpHTβを用い、traB下流に存在する凝集形成に関与するpMG1のtraAと同一の遺伝子の変異体を作製したところ、この遺伝子は凝集性と伝達性にはともに関与していなかった。pHTβと異なりpMG1では供与菌の自己凝集を認めないことからも、pHTβとpMG1とでは、高頻度接合伝達の調節機構は本質的には変わらないが、伝達関連遺伝子及び調節遺伝子の発現レベルがそれぞれ異なっていることが推察された。 クローン化によって同定した宿主の凝集に必要な5個のORFのうちORF10は、グラム陽性菌の付着因子遺伝子と一部分相同性を認め、菌体表面蛋白と考えられた。ORF10のin-frame欠失変異プラスミドを作製し解析した結果、この変異プラスミドを持つ宿主は野生型と比べ凝集性は減弱していたが、液体培地中での伝達性に差は認めなかった。欠失させた内部領域は接合凝集に必須の領域ではないことが考えられた。 pHTβプラスミドによる凝集性が菌の宿主細胞への付着に関与するかを検討する目的で野生型pHTβを保持する凝集株と保持しない株について、マイクロタイタープレートと各種細胞外マトリックス(フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、ラクトフェリン、フィブリノーゲン)を用いたin vitroでの実験系によって菌の付着性を調べた。その結果、今回の付着実験においては菌の細胞外マトリックス(ECM)付着性と自己凝集性との明らかな関係は認められず、ECMを介した宿主細胞への直接的な付着には関与していないと考えられた。
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