「研究の目的」本研究では、医学上重要な単純ヘルペスウイルス(HSV)およびEBウイルス(EBV)がコードするウイルスプロテインキナーゼ(PK)の新規基質を同定し、そのリン酸化の意義を解析することにより、ウイルスPKによるウイルス増殖制御機構および病原性発現機構を明らかにすることを目的としている。 「本年度の成果」プロテインチップを用いたEBV BGLF4 PKに対する宿主細胞基質の網羅的スクリーニング結果に基づき、BGLF4の基質候補の1つとしてFOSファミリーに属する転写因子Fra-2に着目した。結果は以下の通りである。(i)BGLF4は、in vitroおよび細胞レベルでFra-2をリン酸化した。(ii)Fra-2はEBVの溶解感染に伴い発現誘導され、感染細胞においてBGLF4と安定な複合体を形成した。(iii) レポーターアッセイにおいて、BGLF4はFra-2依存的な転写を活性化した。(v)感染細胞において、BGLF4はFra-2と共にウイルス(BZLF1)および宿主遺伝子(MMP1)プロモーターのAP-1結合部位にリクルートされていた。(vi)BGLF4欠損ウイルス感染細胞において、BZLF1およびMMP1遺伝子の発現が低下していた。また、BZLF1は、ウイルス遺伝子発現制御の主要転写因子であるので、その発現低下に伴い、他のウイルス遺伝子群の発現も著しく低下していた。(v)Fra-2をノックダウンした感染細胞でも、BGLF4欠損ウイルス感染細胞同様に、MMP1遺伝子の発現低下やBZLF1の発現低下およびそれに伴う他のウイルス遺伝子群の発現低下が観察された。以上の結果より、BGLF4は溶解感染期に誘導される宿主転写因子Fra-2のリン酸化を行うとともにFra-2と安定な複合体を形成し、プロモーターのAP-1部位にFra-2と共に結合することによってFra-2依存的な転写を活性化すると考えられた。そして、感染細胞における様々な遺伝子の転写制御、特に、ウイルス遺伝子の発現制御に大きな役割を果たしていることが明らかになった。
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