ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)はヒト及びチンパンジーにのみ感染し、カニクイザルなどの旧世界ザルには感染しない。限られた宿主域により動物モデルを得られないことが、エイズの病態理解を困難なものとしている。この解決策としてHIV-1と旧世界サルに感染するサル免疫不全ウイルス(SIV)のキメラウイルスが構築されている。我々は以前、これまでに報告のあったサル指向性HIV-1のカプシド蛋白質の6番目と7番目のαヘリックスの間のループ(L6/7)をSIVmac由来の配列に置換することにより、サル細胞でより効率よく増殖可能なウイルス(NL-ScaVR6/7S)の作製に成功した。 しかしL6/7の置換によりサル細胞でのウイルス増殖が改善する一方で、ヒト細胞における増殖は低下しており、その原因は不明であった。本研究では、NL-ScaVR6/7Sのヒト細胞において低下したウイルス増殖能を改善させるため、NL-ScaVR6/7SをヒトCEMss細胞に感染させ長期間継代を行い馴化ウイルスを得ることを試みた。感染から42日後の培養上清を馴化ウイルスとして回収し、新たにCEMss細胞に感染させると増殖効率は改善していた。得られた馴化ウイルスはカプシドの116番目のアミノ酸がグリシンからグルタミン酸に変異しており、この1アミノ酸置換をNL-ScaVR6/7Sに導入したところ同様にヒト細胞でのウイルス増殖の改善が見られた。さらにTRIM5α感受性に及ぼす影響を検討したところ、意外なことにこの1アミノ酸置換のみを持つHIV-1もカニクイザルのTRIM5αに対して抵抗性になり、116番目のアミノ酸がTRIM5αに対する感受性にも影響を及ぼすことが明らかとなった。
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