研究概要 |
VacAとCagAは共にヘリコバクター・ピロリの主要な病原因子であり、CagAは胃癌、VacAは胃炎、胃潰瘍などの発症に密接に関連することが示されている。したがってCagAとVacAの毒性発現に至るシグナル伝達には独立した固有の経路もあれば両者類似の作用が認められるなど、必ずしも明確な区別がなされていない。我々はこれまで、培養細胞において発現させたCagAが、ピノサイトーシス経路依存性エンドサイトーシスを阻害しVacAの取り込みを抑制すること,さらにはピロリ菌と培養細胞の共培養条件下において、ピロリ菌により注入されたCagAがVacAによる細胞空胞化を低下させることを明らかにした。本年度は、CagAによるVacAの取り込み抑制のしくみを明らかにするため、細胞膜上のVacA受容体分子であるRPTPαに焦点を当ててしらべた。その結果、CagAによるVacAの取り込み抑制と続く細胞障害低下は、CagAがRPTRαのエンドサイトーシスを阻害することから引き起こされていることが示唆された。ピロリ菌CagAによる細胞膜蛋白質のエンドサイトーシス阻害は、VacAによる細胞機能の撹乱やピロリ菌の病原性発現に影響を与えている可能性が考えられた。加えて、極性上皮細胞では、CagAによるErk活性化が、グアニン・ヌクレオチド交換因子H1(GEF-H1)-RhoA-RhoA経路で引き起こされ、その結果活性化されるcMycによって生じたmicroRNA、miR-17とmiR-20aがp21(Waf1/Cip1)の発現を抑制した。しかし、このCagAの作用にはVacAは影響しないことが判明した。
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