研究概要 |
腸管寄生線虫の多くは幼虫の段階で肺を通過する。ところが肺通過という現象が発見されてから1世紀近く経つが、いまだその生物学的な意義は不明である。肺通過は寄生虫に対する宿主免疫応答からも重要である。本研究では、ベネズエラ糞線虫とブタ回虫の肺通過時の遺伝子発現の変化を定量的に解析し、線虫の肺通過の生物学的意味を解明する。本年度は、ベネズエラ糞線虫のゲノム情報を次世代型遺伝子解析装置によって取得し、併せて幼虫段階と成虫のトランスクリプト解析をおこなった。ブタ回虫では従来法による肺移行幼虫のEST解析を実施した。 次世代型遺伝子解析装置によるベネズエラ糞線虫ゲノムの分析では、計3,328,633リード(総計約1.2Gb)の塩基配列のアセンブルから、読み取りの冗長度は約22で、ベネズエラ糞線虫のゲノムサイズは55.4Mbと推定された。C.elegansゲノム、およびネズミ糞線虫ESTとの比較から、約7,000のベネズエラ糞線虫遺伝子候補を得た。トランスクリプト解析では総計11,627本のESTコンティグが得られ、この中の1,341本(11.5%)は既存のデータベースに相同配列を発見できなかった。発現量の多い遺伝子の種類を虫卵/L1幼虫と感染幼虫および成虫で比較すると、発育ステージごとに発現遺伝子の組成は大きく異なっていた。一方、ブタ回虫の肺移行期幼虫EST解析では、1,650クローンの塩基配列から得られた279本のESTコンティグ中、24本(13.3%)は既存ブタ回虫データベースに登録されていなかった。既存データは肺移行期幼虫のESTを含まないことから、これら(MUC-5、C-タイプレクチン、酸性プロテアーゼなど)は肺特異的に発現している可能性が高いと考えられた。次年度は、ベネズエラ糞線虫とブタ回虫の肺移行幼虫について、詳細なトランスクリプト解析を実施する。
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