研究概要 |
Epstein-Barr virus (EBV) BMRF1蛋白質は溶解感染細胞中で大量に発現し、溶解感染時のウイルスゲノム合成に必須の蛋白質である。ポリメラーゼ付随蛋白質としてウイルスDNAポリメラーゼのDNA合成伸長反応の促進を担っているほか、dsDNA結合活性を持ち、複製されたウイルスゲノムを保護していると考えられている。我々は理化学研究所と東北大学工学部と共同でBMRF1蛋白質(1-314aa)の結晶解析を行い、BMRF1蛋白質は水溶液中では主に2量体(tail-to-tail C-クランプ構造)を、一部が4量体(リング構造)をとり、その内側は正電荷を帯びていることがわかった。又、構造解析から推測した内側の電荷を変えた点変異蛋白質(K29E,K99E,R256E,R87E,K19E)と2量体形成を阻害した点変異蛋白質(C95E)、BALF5蛋白質結合部位の点変異蛋白質(H141F)を用いて、dsDNA結合能とポリメラーゼprocessivity能を調べ、内側が正電荷を帯びた2量体でdsDNAと結合していること、ポリメラーゼprocessivity能には単量体で活性を持ち、必ずしもDNA結合能を必要としないことを明らかにした。我々はBMRF1蛋白質の新たな機能として一本鎖DNA結合蛋白質をコードするBALF2遺伝子の転写を促進することを見いだし,その分子機構を解析した。BALF2蛋白質はBZLF1及びBRLF1転写因子によって発現が誘導され、溶解感染初期に大量に発現する。我々はBALF2遺伝子上流域(-358 to +10)をルシフェラーゼ発現プラスミド(pGL4.10)に組み込んだレポータージーンを作成した。BMRF1蛋白質はBZLF1蛋白質の存在下で、BALF2プロモーターの転写を促進した。ルシフェラーゼアッセイ及びEMSAによって2つのBZLF1認識部位(ZREs)が存在する事を明らかにした(-133 to -114,-80 to-57)。また、BZLF1蛋白質がZREsに結合することでBALF2遺伝子の発現が誘導されること、BMRF1蛋白質はBZLF1蛋白質を介してさらに発現を促進していることが示唆された。また、2量体形成を阻害した点変異蛋白質(C95E)はBALF2転写促進能もBZLF1蛋白質結合能も保持していた。以上の結果から、単量体BMRF1蛋白質はポリメラーゼ付随蛋白質として機能しているだけでなく、BZLF1転写因子のコファクターとしてBALF2蛋白質の発現を促進していることが示唆された。
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