研究概要 |
ウイルス増殖と宿主細胞との相互関係の研究をさらに発展させるため、本研究ではヘルペスウイルス潜伏感染から産生感染への切替え、ウイルス増殖(複製と転写)の場の構造について、EBウイルスを中心に研究を進めた。 (1)EBV潜伏感染からウイルス産生感染への切替えの分子機構: EBウイルスの潜伏感染からウイルス産生感染への再活性化に注目し、この中でBZLF1のSUMO化修飾について解析した。BZLF1はウイルスの初期遺伝子の転写を活性化することでウイルスの再活性化を強力に促進する。我々はレポーターアッセイにより、K12R変異を導入したSUMO化されないBZLF1は、野生型のBZLF1よりも有為に強い転写活性能をもつことを見いだした。また、BZLF1のSUMOは、SENPとよばれる脱SUMO化酵素によって脱修飾された。SENPを強制発現させると、BZLF1の転写活性化能が増強した。SUMO化されていないBZLF1はCBPと強く相互作用し、HDACとの結合はほとんどみられなかったのに対し、SUMO化されたBZLF1はCBPと相互作用しなくなり、HDAC7と相互作用するようになった。以上からBZLF1はSUMO化されることによりその転写活性が抑制されるということが明らかになった。 (2)ウイルス複製工場(RC)の構造解析: EBV感染細胞では溶解感染を誘導すると、Replication Compartment(RC)と呼ばれる核の局在した部位でウイルスゲノムの複製・転写が起きる。今回、我々はRC内のどこでウイルスゲノムの複製が行われ、その後どこに移動するのか等RC内のマッピングを行った。共焦点顕微鏡で得られた画像を元に3次元構築を行った結果、RCには、BMRF1-richな構造物(core)が存在することを明らかにした。また、EBVゲノムの標識を行った結果、新しく合成された直後のEBVゲノムはcoreの外側にも存在するが、その後時間の経過とともにcore内部に移動することがわかった。さらに、我々は以前RCには、Homologous Recombinational Repair(HRR)およびMismatch repair(MMR)に関与する蛋白質がリクルートされることを示したが(Kudoh et al J.Virol.2009, Daikoku et al J.Bio Chem.2006)、HRRはcoreの外側に、MMRはcoreの内部に存在することがわかった。 ウイルスゲノム複製と相同組み換えは同時に起こり、その後複製中間体はcore内部に移動し、そこでMMRがミスマッチ部位のサーチングを行っていると考えている。
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