研究概要 |
F_1-ATPase酵素反応の1分子時系列データに対し、(1)階層的な時空間スケールに跨る酵素反応モデルの自然抽出、(2)隠れた状態の探索(1次元に投影することによる"縮退"状態の分離)、(3)推量される階層的酵素反応ネットワークに基づくATP結合、加水分解、脱リン酸化と構造変化のchemo-mechanical couplingを解明することを最終目的とし、以下のことを実施した。 F_1-ATPaseの高分解能(nm,μs)回転時系列データの動態構造をヒストグラム解析、相関解析、Change point解析、およびトレンド解析などの手法を用いて、解析した。相関解析の結果は10^<-3>秒のオーダーで一旦減衰した後も、有意な振幅をもちながら不規則な振動を長時間持続していることが判る(>0.1s)。これは回転運動が複数の時定数を有する階層的なダイナミックスであることを示唆している。 我々は、非定常な一分子時系列データから観測ノイズに埋もれた状態間遷移のシンボル列を抽出する新しい階層的トレンド分解法を開発した。この手法により、できるだけ恣意性を排除した非定常時系列のシンボル化が可能となり、トレンド(回転/停止)とchange points(トレンドが変化する前後の時間)を客観的に同定することができる。定常時系列データを暗黙裡な前提とする従来のChanging point解析を適用すると、非定常時系列データに沿った各点をchange pointsを同定してしまう傾向があり、意味のあるシンボル化ができない。今回、開発した階層的トレンド分解法により、F_1-ATPaseの回転時系列データから状態遷移ネットワークを抽出するうえで、必要な観測ノイズに埋もれたシンボル列を抽出することが初めて可能となる。今後、F_1-ATPaseのATP結合、加水分解などの各状態の滞在時間分布、状態遷移ネットワークの抽出、Dynamic disorderの検証などを行う計画である。
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