レーザー光による光刺激を用いてべん毛モーターの回転速度を可逆的にかつ局所的に操作することで、生体内分子機能をリアルタイムで制御する新しいツールを開発することを目指し、平成21年度は以下を行った。 1.べん毛回転運動の温度依存性:溶液全体の温度を変化させたときの、べん毛モーターの回転速度を基礎データとして調べた。温度制御用の自作チャンバーを用いることにより、時定数1分程度の温度変化に対するナトリウム駆動型キメラモーターの運動応答を計測した。モーターの回転速度は、温度を40℃程度まで上げると直線的に増加し、低温での報告と同様の傾向を示した。しかし、40℃を越えると急激に減少し、室温に戻すとほぼ元のレベルまで回復した。このときのトルクを計算すると、高負荷時のトルクはステップ状に変化しており、40℃以上の高温によってトルク発生単位である固定子の解離が誘導されることが示唆された。高温時の挙動は運動メカニズムを探る上で非常に重要であるが、本研究を行う上では、当面40℃未満の運動を指標とした方がよいと思われる。 2.光刺激用レーザーの導入と回転速度の変調:バックフォーカル照明による回転計測システムに、光刺激用のレーザーを導入した(半導体YAGレーザー(max~2W)をクリティカル照明)。光刺激時間を制御するため、高速シャッタ0を組み込み、パソコンで照射時間(最短5ms)を制御しながら、照射時刻を運動計測と共に記録するシステムを構築した。この計測システムを用いて、1umポリエチレンビーズをプローブとした回転計測を行ったところ、回転速度を、可逆的に5%程度変化させることに成功した。照射条件とプローブの最適化が今後の課題である。
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