タンパクなどの巨大分子系の構造解析法として、X線結晶解析を始め様々な方法があるが、ESRによる距離測定は精度が高いのみでなく、構造のばらつきによる距離の分布も得ることができる、優れた方法である.この方法は、タンパクの場合、特定の部位をニトロキシドラジカルでラベルし(SDSL法)、スピン間距離を双極子相互作用から測定する.特にパルス二量子遷移法はこの相互作用を選択的に測定できる利点を持ち、さらに、2次元化によって距離分布とラジカル配向との相関を求めることができ、タンパクの構造揺らぎの異方性に関する知見を得ることが可能になる.本研究はこの手法の感度の向上および2次元法への拡張を目的とする. 21年度は、1)DQC2次元距離測定法の開発の基礎研究とその応用として、構造が堅固で明確に規定できると予想されるC_<60>のラジカル2付加体の合成、2)同位体置換によって、測定感度を向上させる手法についての検討を行った.1)C_<60>のラジカル2付加体は付加位置および付加方向によって20種以上の構造異性体を生じる.異性体は多様なラジカル間距離と配向を持つことから、2次元法のテストに適している.本年は、DQC測定が可能な1.5nm以上のスピン間距離を持つ異性体5種類をHPLCによって分離し、まず、付加位置を吸収スペクトルにより同定した.2)構造解析の目的としている筋収縮制御タンパクであるトロポニンを用いて、^<15>Nおよび重水素置換したスピンラベルをもちいて、パルスESR測定を行った.^<15>Nについては期待通りのスペクトル幅の減少による信号強度の増加を得ることができた.重水素置換の場合は、ラベル位置によって感度の向上の度合いがかなり異なることを見出した.
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