研究概要 |
タンパクなどの巨大分子系の構造解析法として、X線結晶解析を始め様々な方法があるが、ESRによる距離測定は精度が高いのみでなく、構造のばらつきによる距離の分布も得ることができる、優れた方法である.この方法は、タンパクの場合、特定の部位をニトロキシドラジカルでラベルし(SDSL法)、スピン間距離を双極子相互作用から測定する.特にパルスニ量子遷移法はこの相互作用を選択的に測定できる利点を持ち、さらに、2次元化によって距離分布とラジカル配向との相関を求めることができ、タンパクの構造揺らぎの異方性に関する知見を得ることが可能になる.本研究はこの手法の感度の向上および2次元法への拡張を目的とする. 22年度実績は、以下のとおりである.1)分子構造の分布を考慮した双極子スペクトルのシミュレーションプログラムを完成し、実測スペクトルとの比較を可能にした.2)DQC2次元スペクトルの処理において、特にラジカル間距離の小さい場合のスペクトル歪み除去法を検討し、既存のプログラムに組み込んだ.3)トロポニンのTnCとTnIの2量体について、TnCのA,B,C,D4箇のヘリックスとTnCN末端近傍間にスピンラベルを行い、その距離を測定した.距離分布の解析より、Ca^<2+>イオン付加によりB、Cヘリックスの位置が1nm程度変化することを観測した.さらに、この位置変化について、TnCのリン酸化の影響を検討し、リン酸化によって位置変化量が減少することを見出した.これは、リン酸化がCaイオンとの平衡に影響し、トロポニンの筋収縮制御機能を制御するメカニズムを説明するものである.
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