確立されたATP合成活性測定法により、酵素と基質が1:1の比率となるような濃度での活性を調べた。この条件では、V-ATPase上にある3つの触媒部位の一つで反応が起こることになる。このような基質濃度が薄い条件でもATPの合成活性が測定された。このことは、触媒部位間の共同性がなくても反応が進むことを示す。ATP加水分解反応では、三つの部位間の共同性があって初めて回転触媒機構が進む。従って今回観察された合成反応は、厳密には加水分解反応の逆反応であるとはいえない。前年度、酵素上に結合したADPの合成反応が起こったという報告をしたが、今回極薄いADP濃度でもATP合成反応が起きたことから、結合ADPが一旦酵素から離れてから、再結合した可能性も否定できなくなった。酵素上で堅く結合したADPが直接合成反応の基質となりうるのかどうかは、現在のところ検討事項である。 1分子レベルでATP合成反応を計測する系の確立はできていない。リポソーム内に回転プローブを入れるのがボトルネックになっている。リポソームよりもさらに小さい金コロイド粒子(10nm)の観察系ができれば可能である。現在10-20nm程度の回転プローブの観察系の構築を試みている。
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