前年度に高速AFMを用いてα_3β_3複合体でATP加水分解に伴うβサブユニットの構造変化を画像化することに成功した。本年度は、βサブユニットの構造変化の詳細を調べ協同性の有無を明らかにするための観察を中心に行った。 SPMシミュレータを用いてα_3β_3複合体の結晶構造モデルからAFM画像を再構成した結果、ATP非存在下ではα_3β_3複合体リング構造のうちβはαより凹凸が高く観察されることが分かり、実際に観察されたAFM像と良く一致した。一方、AMP-PNP存在下で観察されたAFM像は、一つのβが開状態で残り二つのβが閉状態であることが分かり、3つのβに同時にヌクレオチドが結合しないことが示された。また、観察されたAFM像は、ATPアナログ結合時の結晶構造から再構成されたシミュレイション像と良く一致し、開状態のβは閉状態より凹凸が高くなることも分かった。3つのβの中で最も凹凸が高い位置を追跡することで構造変化の協同性の有無を調べたところ、βの構造変化は反時計回りに一方向に進んでいることが明らかになった。ATP濃度依存性を調べた結果、βの構造変化の頻度に明瞭なATP濃度依存性がみられ、バルクで計測されたATPase活性のレートに非常によく一致した。ATPase活性はγサブユニットがある場合よりも1/100以下の値で、かつバックステップも多くみられるが、以上の結果はγがなくてもα_3β_3複合体内でATP加水分解の協同性が存在することを示している。αあるいはβが欠損した場合、構造変化の頻度が下がり、方向性も消失することから、サブユニットの構造変化を介して協同性が発揮されていると考えられる。
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