シアノバクテリアは概日リズムが内在するもっとも単純な生物であり、3つの時計タンパク質KaiA、KaiB、KaiCが生物時計の中心的な働きを担っている。3つのKaiタンパク質とATPを混合することで、KaiCのリン酸化型と脱リン酸化型が24時間周期で往来するという生物時計再構成系が構築される。時計の中核であるKaiCはATP依存的に六量体を形成する。KaiCがその機能を発揮するにはKaiAおよびKaiBとの相互作用が不可欠であり、KaiAはKaiCのリン酸化を促進し、KaiBはKaiAの反応を阻害する。概日振動する時計の再構成を用いて、KaiCのATPase活性が概日時計の周期(24時間)を規定する化学反応であり、ATPの加水分解エネルギーは時計を駆動し時計の速度を決定していることが明らかとなった。本研究では、KaiCのATP加水分解の反応機構を分子レベルで解明し、概日時計発振のメカニズムに迫ることを目的にする。 シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC7942由来のKaiA、KaiB、KaiCを大腸菌において大量発現させ、アフィニティー精製を行った。また、KaiCのC末端領域を欠失した変異型タンパク質を作製した。精製した各Kaiタンパク質を用いて生物時計再構成条件下において反応させ、ATPase活性およびリン酸化状態を解析した。野生型KaiCに比べ、変異型では、リン酸化状態の変動は見られず、常に高リン酸化状態となっていた。しかし、KaiCのATP加水分解活性は野生型と大きな違いはみられなかった。KaiCのATP加水分解活性はリン酸化状態だけによって制御されているのではなく他にも制御要因があることが示唆された。
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