研究概要 |
イオンポンプ蛋白質は、エネルギー生産や情報伝達に必要な膜電位やイオン濃度勾配の形成に重要な役割を果たしている。本研究では、高精度な赤外分光計測を駆使して、イオンが輸送される過程で生じるタンパク質の構造変化を明らかにし、その輸送機構の解明を行うことを目的としている。特に、イオンがタンパク質内部でどのような包摂状態にあるのかを、周辺に存在するアミノ酸側鎖や蛋白質内部の水分子の分子振動、さらには赤外活性なイオン分子(硝酸イオン)を用い、イオン分子そのものの分子振動から明らかにする。対象となるイオンポンプ蛋白質は光で駆動される古細菌型ロドプシンが主であるが、それらの研究を元に光駆動ではないイオンポンプ蛋白質(Na^+ポンプであるV-ATPaseなど)も研究対象とし、両者の駆動メカニズムの違いを明らかにする。 平成22年度は以下のような成果を得た。1)プロトンポンプ活性を示す古細菌型ロドプシンであるGloeobacter Rhodopsin(GR)に対して低温赤外分光計測を行い、光誘起構造変化および内部結合水を含む蛋白質内部の水素結合ネットワークの変化を明らかにした。その結果、古細菌型ロドプシンのプロトンポンプ活性と正の相関のある2400cm^<-1>以下の強い水素結合を形成した水分子がGRにも存在することがわかった(Hashimoto, et al.Biochemistry)。2)Na^+ポンプであるV-ATPaseのKリングにおけるイオン脱着に伴う構造変化を全反射赤外分光法によって明らかにした。分子量70万にもおよぶ膜タンパク質複合体においても酵素活性を保ったまま計測することが可能であることを示した(Furutani, et al.J.Am.Chem.Soc.)。
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