バクテリアにおいて、SecA ATPaseはタンパク質膜透過に必須のモータ因子として機能する。15年程前に提唱された、「SecA insertionモデル」に従えば、SecAは、ATPと基質タンパク質分子との結合により、基質分子を伴って膜内深くに挿入し、ATPの加水分解により、基質分子を手放して自分自身は膜から脱挿入するという、ダイナミックな構造変化を繰り返し、膜透過を駆動すると考えられている。このモデルは、多くの実験事実を上手く説明できることから広く受け入れられてきた。しかしながら、最近の膜透過チャネルの立体構造の結果からは、チャネル中にはSecAを受け入れるだけの空間的余裕は全くなく、このモデルの妥当性に疑問が持たれている。また、最近のSecA-SecYEG複合体の立体構造解析の結果に基づいて、新規の膜透過駆動モデルも提唱され、研究は新たな局面を迎えている。研究代表者は、SecAによるタンパク質膜透過駆動の分子機構を明らかとするために、SecAと膜透過チャネルの中心因子SecYとの近接部位を、in vivo光架橋実験、ジスルフィド結合形成実験より調査した。その結果、相互作用時においては、両者は協調的な構造変化を起こし、通常SecAの分子内部に埋もれている高度に保存されたmotif IV領域が分子表面に露出し、SecYの細胞質側の突起と相互作用する事を見いだした。この相互作用は、SecAのチャネル結合に応答したATPase活性化と密接な関係がある事も明らかにした。更に、motif IV領域と近接する逆平行βシート間の疎水的相互作用が、ATPase活性制御と、タンパク質膜透過機能発現に必須の役割を持つことも見いだした。現在は、in vitro膜透過系を用いたより詳細な解析を進めている。
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