バクテリアのべん毛モーターは、自然界では数少ない回転運動を生み出すタンパク質分子機械であり、菌体は、この回転器官を用いて、細胞外に長く伸びたべん毛繊維をスクリューのように回転させることで遊泳運動を行っている。べん毛モーターは、細胞の外から内側へと流入するプロトン流を利用して、高いエネルギー変換効率でトルクを発生しているのだが、その詳細なエネルギー変換機構は明らかにされていない。H21年度、研究代表者らは、タンパク質の構造と機能を変調できる高圧力技術を利用して、べん毛モーターの回転機構を変調しながら高速回転運動を検出することで、回転特性を明らかにする研究を行った。べん毛繊維にポリスチレンのビーズを回転の指標として吸着させ、その回転速度と発生トルクを様々な圧力下で測定した。常温常圧において、べん毛モーターが低速度で回転する領域では(0~140Hz)発生トルクは約1500pNnmで一定であり、高速度領域では(>140Hz)発生トルクは急激に減少した。圧力の増加に伴い、幅広い速度領域で回転速度の低下が見られたが、べん毛モーターが発生できるトルクの最大値に変化は見られなかった。。これまでより、細胞内のプロトン濃度を増加させ、プロトンの流入速度を遅くすることで同様の結果が得られることが報告されている。したがって、べん毛モーターに対する圧力作用は、トルク発生過程を変化させることなく、プロトンの流入速度を低下させていると考えられる。
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