研究概要 |
本年度はFo回転モーター内部のプロトンチャネルの解明を中心に研究を行った。ペリプラズム側のチャネルを検出した一方,細胞質側のチャネルが全く検出されなかったので,aサブユニットとcリングの複合体構造(予測構造)に問題があるのではないかと考え,全原子モデルMD計算によって複合体構造の構造安定性を調べた。cリングの構造にはシアノバクテリアのFoの結晶構造を用い,aサブユニット(結晶構造がないので予測構造を使用)に近接する5つのcサブユニットを取り出してa-c複合体を構築し,これをDOPC2重膜(150分子)に埋め込み,膜の両側に水分子(12000分子)とオキソニウムイオン(10個)を配置させた。周期境界条件を課し,定温定圧条件(310K,100kPa)で計算を行った。5つのcサブユニットのGlu62については異なるプロトネーション状態の組み合わせをためし,それぞれ50ナノ秒の計算を4本(または2本)行った。結果,aサブユニットは相対的に安定性が低く,初期構造からのRMSDも高いものの(約3A),構造自体は収束傾向を示し(Glu62の影響は今のところ見られず)、暫定的ではあるがa-c複合体の(準)安定構造を得ることができた。また,aサブユニット内部を通ってGlu62に到達する水分子も多数検出しだ。つぎに,この安定構造を用い,昨年度に考案した粗視化ボルンエネルギー法(CB法)を用いて粗視化MD計算を行い、プロトンチャネルを再調査した。細胞質側のチャネルを検出できるようになったが、検出頻度は依然として低く,生化学実験結果との定量的な比較までには至らなかった。回転モーターについては自由エネルギー変換機構にまで踏み込めなかったが,リニアモーターについては研究が進展し,KIF1Aが微小管に結合するときに示す一方向的な運動を生み出す主因(相互作用)を明らかにできた。
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