研究代表者らは、これまでにアジアの栽培イネO.sativaとアフリカの野生イネO.longistaminata間の交配によるF1植物において、O.sativa由来のS13^a遺伝子をもつ雄性配偶子が致死となる現象を見出している。遺伝学的解析から、この現象はS13^a遺伝子と、O.longistaminataが保持する、S13^aの対立遺伝子S13の両者が同一個体に存在する場合に起きることを明らかにしている。S13遺伝子を同定する目的から、両植物間の交雑によるF1植物に対してO.sativaを連続して戻し交雑することにより、O.longistaminata由来のS13遺伝子を含む染色体領域をもった染色体置換系統を作出し、候補遺伝子を絞り込んだ。S13遺伝子座の関与する雑種不稔現象の原因遺伝子の候補が数個に絞られたことから、その一つを導入した植物体を作出したが、明確な稔性の変化は検出されなかった。そこで、本年度は、他の候補遺伝子を導入した。その結果、外来遺伝子が高発現した個体で花粉稔性が低下し、導入した遺伝子が雑種不稔の原因遺伝子として有力であると考えられた。S13遺伝子座には、上記のどちらのイネ系統と交雑した場合でも、雑種不稔を引き起こさないS13^n遺伝子を持つ系統が存在することを見出している。本年度は、遺伝学的解析によってその詳細なマッピングを行い、S13^n遺伝子がS13遺伝子座における対立遺伝子であることを明らかにした。一方、アジアのイネ間においてS6遺伝子座が関与しておきる雑種不稔現象の機構を明らかにするため、雌雄の交配親を逆にした戻し交雑等の実験を行い、配偶子の伝達が雌雄異なる発生段階で影響を受けていること、ならびに、この遺伝子座が関与する雑種不稔現象が、50cMの染色体領域にわたって影響することを明らかにした。
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