約一日周期の生物リズムを生み出す概日時計は、時計遺伝子の転写・翻訳を介したフィードバックループにより形成されている。そのため、多くの時計遺伝子の転写は時刻依存的に制御され、その翻訳産物である時計蛋白質は約24時間周期で増減を繰り返す。私共は、このリズミックな転写の強力な負の制御因子であるCRY2のSer557とSer553が時刻依存的に順次リン酸化され、プロテアソーム系によって分解されることをすでに報告した。本研究では、CRY2の分解が時計発振に与える影響を、CRY2Ser557をリン酸化するキナーゼであるDYRK1Aのノックダウン実験により解析した。概日時計を発光レポータでモニターできる培養細胞においてDyrk1aをノックダウンすると、約0.5時間の発光リズム周期の短縮が観察された。このDyrk1aノックダウン細胞においてCRY2蛋白質の日周変動を核と細胞質に分けて調べたところ、細胞質においてCRY2蛋白質が一日を通して異常に高いレベルで変動していた。一方、核内のCRY2の最高・最低レベルは影響を受けないが、正常よりもCRY2がより早いタイミングで蓄積する変化が観察された。これらの結果から、DYRK1AはCRY2が蓄積する時間帯において細胞質CRY2の分解を促進し、CRY2が核へ移行するタイミングを遅らせるという重要な機能を持つと考えられた。つまりCRY2のSer557/Ser553のリン酸化による分解制御は、時計遺伝子の転写サイクルの遅延機構として概日時計の周期を調節する役割を担うと考えられる。さらに本年度、CRY2のリン酸化依存的な分解が、マウス時計組織の分子時計において果たす役割を検証するため、PER2::Lucノックインマウスを用い、時計組織における発光リズムをモニターする測定系を確立した。
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