ほ乳類のCRYタンパク質CRY1・CRY2は、時計遺伝子の転写を強力に負に制御することにより、概日時計の発振において中心的な役割を果たす。このうちCRY2は、557番目のセリン残基(Ser557)のリン酸化に依存してプロテアソーム系を介した分解制御を受ける。私共は、このリン酸化依存的分解の生理的意義に迫るため、Ser557をAla置換した変異マウスを昨年度に作製した。本年度は、このS557A-CRY2ノックインマウスを用い、CRY2の分解の異常が個体の行動リズムおよび分子リズムに及ぼす影響を調べた。まず、CRY2の分解が個体の概日リズム周期を調節する可能性を探るため、S557A-CRY2ノックインマウスの輪まわし行動リズムを解析した。その結果、恒暗条件下において変異ホモマウスは野生型よりも長い周期の行動リズムを示した。一方、CRY2分解が概日時計の光リセットに寄与する可能性を調べるため、主観的夜の前半または後半に30分の光パルスを与え、行動リズムの位相シフトを解析した。その結果、野生型と変異マウスの間で光位相シフトに違いは観察されなかった。次に、一日の様々な時刻でマウスから肝臓を単離し、一群の時計タンパク質の発現リズムを調べた。その結果、変異マウスにおいて、CRY2とその結合パートナーであるPER2のタンパク質量が増加していた。一方、変異マウスの肝臓ではCry2・Dec1遺伝子の発現量が有意に低下していた。さらに、E-boxに制御されている時計遺伝子であるDbp・Per1、および時計の下流遺伝子であるCyp51も発現量が低下する傾向が見られた。これらの結果から、CRY2のリン酸化依存的な分解は、時計タンパク質と時計遺伝子の発現を調節することにより、精密に制御される概日リズム周期の決定において重要な役割を果たすと結論した。
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