本研究では、これまで不明であったジスルフィド結合形成不全による異常タンパク質の分解や2型糖尿病の大半で認められるアミロイド(アミリン)の分解に関わる因子の網羅的な検索をおこない、分解制御の新たな分子機構の解明と糖尿病発症におけるタンパク質分解系の意義の解明を目指した。GFP分子を利用した生細胞でのイメージング技術とRNAiライブラリーによる遺伝学的な手法を利用して、膵β細胞においてタンパク質の分解に関わる因子の網羅的な検索を行った。具体的には、ジスルフィド結合に必要な96番目のシステインをチロシンに置換したジスルフィド結合形成不全インスリンを用いたレポーターとマウスと比べて凝集しやすいヒトアミリンを用いたレボーターを用いてスクリーニングを行った。その結果、2つの異なるレポーターに共通して、ユビキチンプロテアソーム分解系の因子と小胞体でのタンパク質の折り畳みを助ける分子シャペロンなどが見出された。一方、アミリンに特徴的な因子としてオートファジー分解系の因子が、インスリンに特徴的な因子としてレドックス制御の因子が見出された。これらの結果は、小胞体でのタンパク質の分解に関与する因子が、タンパク質で共通に働く因子とタンパク質ごとに働く因子が存在することを示している。今回の研究で用いたレポータータンパク質はいずれも糖尿病発症と関連が指摘されていることから、これらのタンパク質分解の役割がさらに明らかになれば、これまでの代謝治療薬とは全く異なった創薬標的の開発の可能性が出てくると期待される。糖尿病やメタボリック症候群といった代謝の恒常性の破綻が原因となる疾患の増加が大きな社会問題となっており、本研究での知見はそれらの解決に繋がる基礎的な情報を提供することが期待できる。
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