傍腫瘍性精神神経疾患を呈した患者の血清中に検出された自己抗体の標的分子として同定されたFbxo45は、N末端側にF-boxドメインをC末端側にSPRYドメインをもつF-box型ユビキチンリガーゼ群の新しいメンバーであり、神経系にのみ発現することが示された。ラット海馬神経細胞を用いた電気生理学的解析の結果、Fbxo45が成熟したシナプスで起こる神経伝達物質の放出に抑制的に作用することが示された。そこでシナプス前膜における神経伝達物質放出機構にFbxo45が機能的に関与する可能性を考え、網羅的に神経伝達物質放出調節因子との結合実験を行った。その結果、Fbxo45がMunc13-1と結合することが明らかになった。Fbxo45の強制発現によりMunc13-1のタンパク質レベルがFbxo45発現量依存的に減少し、さらに細胞内での半減期が顕著に短縮した。逆にFbxo45に対するsiRNAを導入したところ、Munc13-1の半減期が顕著に延長した。一方、Munc13-1と複合体を形成し神経伝達物質放出に関わるRIM1に対しては影響を与えなかった。これらの結果はFbxo45が高い基質特異性のもとに標的タンパク質を分解に導くことを示している。さらにFbxo45に対するsiRNAを培養神経細胞に導入したところ、mEPSC頻度の増加が観察された。以上の結果から、Fbxo45はシナプス前膜においてMunc13-1のタンパク質レベルを調節することにより、シナプス伝導の効率を制御していることが明らかになった。 本症例に類似した病態を呈した症例22例を集め、その血清を用いてウェスタンブロット法により抗Fbxo45自己抗体を検出、抗体力価を測定し、自己抗体の産生と精神神経疾患との関連について疫学的に解析を行った。その結果、22症例中3例において高力価抗Fbxo45自己抗体が検出された。
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