細胞内でポリユビキチン鎖の連結様式の違いがどのように識別されるかは、ユビキチンシグナリングを理解する上で根本的な問題である。UBZ(Ub-binding zinc finger)ドメインはDNA修復や転写制御に関わるタンパク質に存在する新規ユビキチン結合ドメインであるが、30アミノ酸程度の短い配列であるにも関わらず、8つのグループに分類され、ユビキチン鎖の結合の種類に対して異なる親和性を示すものがある。UBZファミリーのうちタイプ3とタイプ4のグループはDNA修復に関与するタンパク質に見出される。一方、タイプ1およびタイプ5のグループは、転写因子NF-κBの活性制御に関与するタンパク質の中に見出される。本研究ではこれらのDNA修復と転写制御に関わるUBZドメインと種々のユビキチン鎖との相互作用の特異性を解析し、結晶構造解析によりそれらのユビキチン鎖結合特異性の違いを分子レベルで解明することを目的とする。 平成21年度には複数のUBZドメインについてモノユビキチンとの相互作用をプルダウン実験で検出し、表面プラズモン共鳴やマイクロ熱量計などにより結合定数を求めた。そしてそれらの結晶化を試みたが、UBZドメインはいずれも30アミノ酸程度の短い配列のため、結晶化が非常に困難であった。そこで結晶成長を助けるためにメチル化などの化学修飾、タンパク質表面のアミノ酸置換、タグを付加した状態での精製・結晶化などを検討したところ、タイプ1に属するTAXIBP1のUBZドメインについて、緑色蛍光タンパク質(GFP)タグと融合させた状態で結晶化することができ、構造解析に成功した。
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