マウス培養破骨細胞の細胞膜に発現する2種の起電性プロトンセンサー、V-ATPaseと電位依存性プロトンチャネル(H^+チャネル)が環境変化に応じて働き方を変えていく仕組みを検討した。(1)分化過程:電流密度の比較から、V-ATPaseの細胞膜への発現は分化初期に完成しその後は細胞融合によって総量が増加するだけであるのに対し、H^+チャネルは分化と共に発現が抑制された。(2)抑制応答(Ca-sensing応答):高Ca刺激によって起こるエンドサイトーシスおよびV-ATPase電流抑制が、Ca受容体、ホスホリパーゼC、細胞内Ca、カルモジュリンの関わるシグナル伝達経路を介すること、エンドサイトーシスがダイナミン依存性であることが明らかになった。細胞膜V-ATPaseの変化とサイトーシスはしばしば連動したが、H^+チャネルとサイトーシスには特に深い関連は見られなかった。(3)骨基質の接触刺激:骨基質との接触は重要な環境刺激となるため、骨組織代替材料をテストした。ハイドロキシアパタイト粒子を液中に添加したり、マイクロピペットで細胞に直接接触させH^+電流を記録したが、"接触"の評価法、生体材料との違いなど検討すべき課題が多い。魚鱗は透明度が高く、細胞を視認しながらホールセル記録が可能という利点があった。アクチンリングの形成が不十分であるが、有望な材料であり表面処理など改良を進めていきたい。これらの実験を通じて、H^+チャネルとV-ATPaseの制御機構がかなり異なることが明瞭になった。破骨細胞におけるH^+チャネルの機能的役割が何かという根源的な謎を解く鍵はH^+チャネルの閾値の制御にあると私達は推測している。本年度の実験で得られた様々なヒントを活用し、H^+チャネルの閾値変動のメカニズムをひとつの手がかりに、H^+センサーのモーダルシフトを機能的側面から捉え直していきたいと考えている。
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