今年度の研究では、Pseudomonas aeruginosaの酸素に対する走化性制御系において酸素センサーとして機能している新規な酸素センサータンパク質Aer2を見出した。本研究では、ガス分子により駆動される新規なセンサータンパク質として、昨年度に見出した好冷性硫酸塩還元細菌であるDesulfotalea psychrophila由来のHemDGCとともに、Pseudomonas aeruginosa由来のAer2を研究対象とし、これら酸素センサータンパク質の構造機能相関の解明を目的として研究を行った。HemDGCはグロビンドメインを、Aer2はPASドメインをセンサードメインとして利用しており、いずれの場合もプロトヘム(b型ヘム)を酸素センサーの活性中心として利用していることが分かった。HemDGC、Aer2いずれの場合も、ヘム遠位ポケットに存在するアミノ酸残基とヘムに配位した酸素分子間で形成される水素結合が、酸素の選択的センシングに重要な役割を果たしていることが分かった。部位特異的変異導入法と共鳴ラマン分光学による解析の結果、HemDGCでは、ヘムに配位した酸素分子とTyr55とGln81の間で水素結合ネットワークが形成されていることを明らかにした。酸素のかわりに一酸化炭素がヘムに結合した場合には、このような水素結合ネットワークは形成されず、Gln81のみが一酸化炭素と相互作用していた。Aer2の場合には、ヘムに結合した酸素分子とHis251が水素結合していることを示唆するデータが得られた。このような特異的水素結合ネットワークの形成により誘起されるヘム周辺のコンフォメーション変化が、分子全体の構造変化へとつながることで、酸素に応答した機能制御が達成されているものと考えられる。
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