植物のG2/M期特異的遺伝子の上流域には共通のシスエレメント(MSAエレメント)が存在し、そこにR1R2R3-Myb転写因子が結合することをすでに明らかにしている。シロイヌナズナにはR1R2R3-Mybをコードする遺伝子が5個存在しており、このうち3個が転写抑制因子としての働きを持っている。これらR1R2R3-Myb転写抑制因子の遺伝子破壊株を用いた解析の結果、R1R2R3-Myb転写抑制因子は、増殖の停止した細胞においてMSAエレメントに結合することによりG2/M期遺伝子のプロモーター活性を積極的に抑制するアクティブリプレッサーとして働いていることが示唆された。また、G2/M期遺伝子として知られるPLEやEDE1には部分的な機能欠損による弱い変異アリル(ple-2およびede1-1)が知られているが、これらの変異アリルによるサイトキネシスの異常が、Myb転写抑制因子の三重変異により抑圧されることがわかった。この結果は、Myb転写抑制因子が細胞周期を回転させている細胞においてもG2/M期遺伝子の転写を抑制していることを示唆するものであった。また、CYCB1;1-GUSやCYCB1;2-GUSのG2/M期特異的転写によるGUSのパッチ状の発現が、三重変異体では、周期依存性が失われて若い葉や根端において一様に発現するようになることから、増殖中の細胞におけるMyb転写抑制因子の機能は、G2/M期以外の細胞周期の時期に標的遺伝子の転写を抑制することであると考えられた。すでに明らかにしているG2/M期特異的なMyb転写活性化因子の働きと、このような転写抑制の組み合わせによりG2/M期に特異的な転写が実現しているという仮説が考えられた。
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