研究概要 |
高等植物のからだ作りにおいて,表皮細胞分化は不可欠である。本研究者らは,シロイヌナズナの地上部表皮の幹細胞,すなわち茎頂L1層に特異的な遺伝子発現に関わる転写因子PDF2,ATML1の解析をすすめ,これらが表皮細胞分化において中心的なはたらきを担う制御因子であることを明らかにしている。本研究では,PDF2,ATML1の発現調節領域,発現様式の解析から,L1層に特異的な遺伝子発現調節機構が確立する分子基盤の解明を目指した。 1) レポーターを用いたPDF2とATML1の発現解析 PDF2,ATML1遺伝子はいずれも5'リーダー配列転写領域にイントロンをもつ。また,PDF2の5'転写領域には2つの短いコード領域いわゆるuORFがある一方,ATML1は転写開始点が2つある。uORFの有無や転写開始点の違いを考慮したGUSレポーター融合遺伝子を構築して,形質転換植物を作出し,GUS発現を観察したところ,ATML1については2つの転写開始点いずれにつないだ場合も茎頂L1層や若い栄養器官の表皮にGUS染色が見られ,顕著な相違は認められなかった。PDF2についても栄養器官では同様の染色パターンが見られた。 2) pdf2 atml1二重変異の解析 pdf2-1 atml1-1二重変異は表皮分化に著しい欠損を示す一方,強い変異アレルを含むpdf2-1 atml1-2二重変異は胚致死になる。初期胚発生における細胞分裂面を観察したところ,球状胚期のL1層に垂層分裂以外の異常な分裂パターンが変異体に顕著に見出され,PDF2,ATML1が胚発生においてL1層の垂層分裂の維持に必要であることが確かめられた。以上の結果から,胚の表皮細胞に沿ったオーキシンの濃度勾配が分裂面を決定するという仮説に基づいて,初期胚形成が進行する機構を解析する手がかりが得られた。
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