研究概要 |
マウスの体細胞核移植(NTSC)では,HDAC阻害剤のトリコスタチンA(TSA)で再構築胚を一定期間培養することにより胚盤胞(BC)期への発生率およびNTSC個体の作出率が向上することが知られているがウシNTSC胚の遺伝子発現機構におよぼす影響は明らかではない。そこで本年度は,TSA処理がウシNTSC胚のmRNA発現量およびヒストンのアセチル化におよぼす影響について検討した。ウシ線維芽細胞をドナー細胞に用いてNTSCを行い,50nMTSA添加または無添加培地で再構築胚を14時間培養した。培養7日目にBC期胚を採取し,RT-リアルタイムPCR法を用いてIGFBP-2,IGFBP-3およびFGF-4遺伝子のmRNA発現量解析を行った。また,BC期におけるヒストンH3およびH4のアセチル化状態を組織免疫染色法により解析した。ウシNTSC胚のIGFBP-2発現量はTSA処理の有無にかかわらず体内受精・体内発生(Vivo)胚および体外受精(IVF)胚と比較して差は認められなかった。TSA無処理NTSC胚のIGFBP-3発現量はVivo胚と比較して有意(P<0.01)に低い値を示したが,TSA処理胚においてはVivo胚およびIVF胚と比較して差は認められなかった。一方,NTSC胚のFGF-4発現量はTSA処理の有無にかかわらずVivo胚と比較して有意(P<0.01)に低い値を示した。TSA無処理NTSC胚のヒストンH3およびH4はともに低アセチル化状態にあったが,TSA処理により高アセチル化状態を示す胚が増加し,その割合はVivo胚と同程度であった。以上の結果より,ウシNTSC胚のTSA処理は,再構築胚のmRNA発現およびヒストン修飾を変化させ,NTSC胚の遺伝子発現機構の一部を正常化する可能性が示唆された。
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