NAD+依存性脱アセチル化酵素群Sirtuinは、エネルギー代謝とエピジェネティクス制御をはじめとする細胞機能の橋渡し分子として、老化や発癌・代謝疾患における意義が注目されている。本研究では、受精前後のストレス応答におけるSirtuinの役割について、siRNAによるノックダウンと遺伝子欠損マウス胚を用いて解析した。受精卵ではすべてのSirtuin(Sirt1~7)が発現しており、Sirtuin阻害薬により発生の遅延や停止、及びミトコンドリア由来の活性酸素種(ROS)産生の増加が認められた。ミトコンドリアへの局在と過酸化水素刺激による発現上昇から、Sirt3に注目した。siRNAインジェクションによるSirt3ノックダウンを行ったところ、胚盤胞形成率低下及びROS増加が認められた。Sirt3遺伝子ノックアウト胚でも体外受精後の培養により発生異常が生じた。抗酸化剤NAC処理や低酸素培養によりノックダウン胚の発生率が改善したことから、過剰ROS産生が発生異常の原因と考えられた。さらに、ノックダウン胚、ノックアウト胚においてp53及び下流遺伝子p21の誘導が認められ、その誘導がNACで抑制されたこと、Sirt3ノックダウンによる胚盤胞形成率低下がp53を同時にノックダウンすることにより改善したことから、p53シグナルの関与が示された。以上より、Sirt3は体外環境下における正常な初期発生進行にミトコンドリア機能調節を介して防御的に機能すると考えられた。本研究は、初期発生の制御機構解明に貢献するという生物学的意義をもっとともに、生殖補助医療における体外受精効率の影響因子の解明とその改善に向けた臨床研究にも貢献することが期待される。
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