研究概要 |
本年度は、前年度に引き続いて受精前後のストレス応答におけるNAD+依存性脱アセチル化酵素Sirtuinの役割についての研究を行い、これを完成させて論文発表を行った(Kawamura et al., J. Clin. Invest.120;2817,2010)。受精卵ではすべてのSirtuin(Sirtl~7)が発現しており、このうちSirt3のmRNAおよびタンパクレベルが活性酸素種(ROS)刺激で増加することを示した。受精卵をSirtuin阻害薬で処理すると、発生の遅延や停止、及びミトコンドリア由来のROS産生の増加が認められた。siRNAインジェクションによるSirt3ノックダウンを行ったところ、Sirtuin阻害薬処理と同様に、胚盤胞形成率低下及びROS増加が認められた。Sirt3遺伝子ノックアウト胚でも体外受精後の培養により発生異常が生じた。抗酸化剤NAC処理や低酸素培養によりノックダウン胚の発生率が改善したことから、過剰ROS産生が発生異常の原因と考えられた。さらに、ノックダウン胚、ノックアウト胚においてP53及び下流遺伝子P21の発現増加、Nano9の発現低下が認められ、これらの変化がNACで抑制されたこと、Sirt3ノックダウンによる胚盤胞形成率低下がP53を同時にノックダウンすることにより改善したことから、p53シグナルの関与が示された。以上より、Sirt3は体外環境下における正常な初期発生進行にミトコンドリア機能調節を介して防御的に機能すると考えられた。本研究は、初期発生の制御機構解明に貢献するという生物学的意義をもつとともに、生殖補助医療における体外受精効率の影響因子の解明とその改善に向けた臨床研究にも貢献することが期待される。
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