哺乳類の生殖系列細胞の発生・分化においてエピジェネティックな制御が重要な役割を果たしている。その制御機構の全体像を把握するのには、関連する制御因子の同定と因子間のネットワークを解明することが必須である。本研究の目的は、遺伝学的相互作用をもとに制御因子間のネットワークを明らかにすることが比較的容易であるショウジョウバエをモデル生物として用いて、雄における減数分裂遺伝子の発現制御ならびに精子核の凝縮に必須なエピジェネティックス制御因子を同定し、それらの制御ネットワークを解明することにある。 1) 精子核の凝縮におけるエピジェネティックス制御因子の役割:メチル化ヒストンH3K9に特異的な抗体を用いた免疫染色により、精子形成過程におけるヒストンのメチル化パターンの動態について解析した。精子は凝縮が行われる際、ヒストンがプロタミンに置き換えられるが、それが行われるneedleステージで、メチル化ヒストンシグナルが観察された。また、ヒストンメチル化酵素dG9aに特異的な抗体で免疫染色を行ったところ、16細胞期で細胞間をつなぐヒュゾムに局在がみられ、精子を個別化させるelongationステージにおいて、そのシグナルが尾部へと移動し、needleステージでも、シグナルが見られた。これらのことより、精子の凝縮の際、一度ヒストンがプロタミンに置き換えられるが、再びヒストンがプロタミンに置き換わりメチル化され、ヘテロクロマチン化されていることが示唆された。 2) ヒストンメチル化酵素dG9aと相互作用するエピジェネティック制御因子の遺伝学的同定:dG9aを複眼原基細胞において大量発現させると成虫複眼の形態異常が観察される。染色体欠失変異系統ライブラリーを用いたスクリーニングにより、dG9aと遺伝学的相互作用する遺伝子が存在するゲノム領域を複数箇所同定した。
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