地域大国と民族紛争とが関わるケースとしては、まず2つが想起される。当然なことであるが、地域大国が国内に民族紛争を抱える場合と地域大国が国外の民族紛争に関係する場合である。前者については、必ずしも地域大国に限った場合ではないので、本研究においては専ら後者についての考察を行っている。以下、暫定的な知見・理解は以下の通りである。 1.地域大国は何故に世界大国ではなく、「地域」大国なのであろうか。これについては、言うまでもなく、当該大国の影響力の及ぶ領域的範囲という量的な次元を考慮しなくてはならない。しかし他方で、それは地域大国の影響力の根源とその意思という質的な次元とも密接に関連して来る。 2.大国の影響力の根源は、政治(軍事)的なもの、経済的なもの、イデオロギー的なものに大別できるであろう。勿論、これらは相互に関連しあって影響力の基盤を為しているが、相対的にどの分野の要因が強調されるかは、比較的容易に看取されるのではないかと思われる。その分野の特徴から判断して、影響力を外部に及ぼしやすいのは「イデオロギー的なもの>経済的なもの>政治(軍事)的なもの」ということができるであろう。ソフト・パワー的なものからハードへというスケールとも言える。しかし繰り返すが、ハードなしでは如何に魅力的なソフト・パワーであろうと、広い領域に影響することは難しい。 3.最後に、如何にソフト、ハード共に広い領域に影響し得るだけのパワーを有していようとも、当該大国がそれを既に自分の影響下にある地域の外へと影響力の範囲を拡大する意志がなければ、大国は世界大国にはなり得ない。しかし拡大せざるを得ないように追い込まれる、「安全保障パラドクス」のような事態もあり得る。
|