本研究の目的は、インドの農民および農村の問題について考察することにある。インド農村の特徴として、農業に従事する人々は多様であり、内部に大きな格差を含んでいる。にもかかわらず、ナショナリズムやネオ・ポピュリズムの政治や社会運動において、しばしば「村落共同体」として農民の利益が一枚岩的に表象されてきた。それによって貧困や剥奪など農村が抱える問題が逆に覆われてきた。一方、カーストを基盤とする政治的動員によって、農村部における「カーストの政治化」は促進され、強化されてきた。本研究は、農民がもつ種々の社会的ネットワークを分析し、農民自身が自らの問題をどのように理解し、地域社会や国家やグローバル市場というマクロ社会に対し、どのように自己を表象するのかを考察する。中心課題はインド農民の社会的ネットワークのあり方と彼ら自身が地域社会や国家に対して自己を表象する方法を明らかにすることである。このため特定地域の農民たちがもつネットワークについて調査を実施する必要があり、今年度はバングラデシュ・ジェソール地域で農民の社会的政治的活動およびネットワークについて調査を実施した。また、イギリスのBritish Libraryで関連資料の収集をおこなったほか、英国南アジア学会に出席した。
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