研究概要 |
本研究ではYb化合物を中心に量子臨界点(QCP)近傍の電子状態にあると考えられる異常金属相の研究について超音波を用いた弾性定数の測定を行ってきた。QCPとは伝導電子と局在4f電子との相関の中で、伝導電子が4f電子を磁気的に遮蔽しようとする近藤効果と4f電子間に磁気的な相互作用がはたらくRKKY相互作用がエネルギー的に拮抗した状態を意味する。この付近で出現する異常金属相、取り分は、低温領域で大きい比熱のγ係数を有するYbTr_2Zn_<20>(Tr=Co,Rh,Ir)、YbPtSbおよびその周辺物質であるPrTi_2Al_<20>について研究を推進してきた。その結果、Yb化合物については量子臨界点近傍の電子状態を反映した温度の対数に比例する特微的な弾性率の振舞を初めて観測し、その解析を行った。また増強された大きい有効質量の起源を、Ybの価数揺動に起因する物理模型を構築し、価数および四重極モーメントの揺らぎが異常金属相形成に極めて重要な役割を担っていることを明らかにした。 PrTi_2Al_<20>については単結晶試料を用いた超音波音速測定を行い、弾性率の温度依存性および磁場依存性に関する詳細な実験データを採取した。この系は単結晶育成が極めて困難であり、超音波測定を十分に行えるサイズ(1mm^3)の単結晶試料が入手出来ない状態であった。本研究では厚み約0.4mmの極めて微小な単結晶を用いた超音波測定を独自の技術法で可能にした。この結果から低温で出現する新奇相転移の起源を四重極モーメントが強的に揃う秩序であることを明らかにした。またPrの4f基底状態も低温弾性異常から明らかにし、PrTi_2Al_<20>の低温電子状態に関する有力な知見を得ることが出来た。 こうした結果は次年度で展開するその他Yb化合物系のQCP近傍電子状態を解釈する上での堅固な基盤となり、QCP近傍にある異常金属電子状態の全貌解明に大きく貢献できるものと考えられる。
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