今年度は主に重い電子系超伝導体CeColn5におけるFFLO超伝導と反強磁性の共存相の可能性について研究を行った。超伝導の標準理論であるBCS理論では、クーパー対が運動量を持たないことが仮定されている。それに対して、有限の運動量を持つクーパー対の量子凝縮による超伝導相がFFLO超伝導である。CeCoIn5の低温高磁場において新しく見つかった超伝導相がFFLO超伝導相であるという指摘があったが、その相において反強磁性秩序が見つかったため、その正体は混迷を深めていた。 この新しい超伝導相の正体を探るため、スイス連邦工科大学のManfred Sigrist教授と共同で理論研究を行った。d波超伝導と反強磁性の多重量子臨界点を記述する有効モデルを平均場近似によって解析した結果、この新しい超伝導相の正体がFFLO超伝導と反強磁性の共存相であることが分かった。我々の計算結果は相図の特徴をよく再現し、中性子散乱や核磁気共鳴の実験結果から得られた磁性の特徴とも一致した。理論的提案から40年以上を経たFFLO超伝導が重い電子系において初めて実現したことを強く示唆する研究成果となった。この研究成果に関する解説記事が科学雑誌「パリティ」に掲載された。 他に、多軌道系超伝導体におけるスピン軌道相互作用と電子相関効果の協奏現象について研究を行った。ルテニウム酸化物超伝導体を念頭において構成した3軌道ハバード模型を動的平均場理論に基づいて解析した結果により、パウリ帯磁率とヴァン・ブレック帯磁率に対する繰りこみ効果を調べた。 また、京都大学の実験グループとの共同研究により、重い電子系超伝導体URu2Si2における隠れた秩序下で起こる超伝導について研究を行った。4回対称性の破れに伴う超伝導2段転移の可能性を提案した。
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