本年度は、スクッテルダイト系特にPrFe_4P_<12>の秩序状態に関して多バンドモデルの構築を行った。スクッテルダイト系に共通のプニクトゲンによる主要pバンドに加えて、鉄イオンのdバンドを考慮した強結合モデルを導出し、それが第一原理計算をよく再現することを示した。続いて、伝導電子-f電子の現実的な混成行列要素の計算を実行し、pバンドがf電子Γ_7状態と、dバンドがΓ_8状態とそれぞれ混成することを示した。これはdバンドにより強い近藤効果がもたらされることを強く示唆する。 また、類似物質PrRu_4P_<12>の磁気抵抗の解析も行った。電荷秩序相における3重項基底に着目し、伝導電子と3重項との交換相互作用による輸送現象への寄与をボルツマン方程式の定式化により調べた。現実的な交換相互作用の値を用いて、抵抗の磁場温度変化が定量的に再現されることが示された。また、ホール効果に関して、交換場と非弾性散乱の寄与が、ホール係数およびホール移動度それぞれに明瞭に反映されていることが分かった。 f電子系における八極子秩序状態の中性子散乱の理論についても取り組みを行った。特にCe_<1-x>La_xB_6のII相およびIV相に関して、それぞれ八極子T_<xyz>およびT^βの秩序状態を仮定し、磁気形状因子を計算した。異なる八極子秩序変数を反映して、2つの相では形状因子の運動量差に対する異方性が全く異なることが分かった。この結果は、最近の中性子散乱実験と大変良く一致し、八極子の型および大きさを中性子散乱により曖昧さなく決定できることを示した。さらに、URu_2Si_2に関しても、磁場誘起の八極子による形状因子の計算を行い、予想される強度および異方性を詳しく調べた。
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