金属と量子井戸結合系における低次元励起子・プラズモン相互作用について時間的分解分光法を用いて解明した。初年度は、量子井戸層を構成するCd_<0.08>Zn_<0.92>O/ZnO単一ヘテロ構造の発光特性を詳細に検討した。量子井戸からの励起子光は、著しく測定温度に依存する。測定温度の低下と伴に、電子・正孔対から構成される励起子がCd元素の空間不均一性による深いポテンシャルに捕捉され、高輝度な発光を生ずる。一方、室温においては、ポテンシャル内への励起子捕捉が、熱的揺らぎにより解放され、発光における量子効率の低下を引き起こした。この描像は、高速時間分解分光法における発光寿命測定から示唆された。低温域(10-75K)において、発光寿命は2つの成分から構成される。数百ピコ秒の短い減衰成分と数ナノ秒の長い発光寿命である。短い発光寿命成分は、励起子の直接再結合に相当し、一方、長い発光寿命は、励起子が深いポテンシャルの捕捉されるために生じる成分である。75K以上の測定温度において、励起子局在性に起因した長い発光寿命成分が消失した。金属と量子井戸間のエネルギー結合は、低温域においてのみ観測され。室温下においては見られなかった。つまり、量子井戸から金属へのエネルギー移動は、低温域で効率的に行われることを意味し、励起子の再結合(発光)過程に強く依存する。金属と量子井戸間のエネルギー共鳴には、金属表面上に励起される局在プラズモンが密接に関連する。つまり、量子井戸内の励起子再結合エネルギーが、金属表面上のプラズモン励起に移動していること意味する。
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