本申請研究では、超高効率太陽電池への応用が期待される多層積層量子ドットを対象とし、バンドギャップエネルギーの2倍程度のエネルギーである可視光で励起した場合の光励起キャリアと励起子のダイナミクスを測定することで、共鳴的な発光増強の起源を明らかにすることを目的としている。平成22年度は、前年度に明らかにした高次の励起子準位のキャリアダイナミクスを明らかにすることを目的に研究を行った。試料には30層積層したInAs量子ドットを用いた。スペーサー層の厚さは40nmである。一般的なInAs量子ドットは、バンドギャップエネルギーが1.3μm近傍の波長帯に存在する。一方、0.6μm近傍に幅広いピークを有する光吸収帯が存在することを明らかにしている。この準位を励起した場合と、量子ドットの励起子エネルギー帯のみを励起した場合の発光ダイナミクスの変化を測定した。量子ドットの励起子準位を励起した場合と比べ、高次の準位を励起した場合、発光減衰時間が2倍程度に増加した。興味深いことに、この寿命は励起光エネルギーや検出エネルギーにはほとんど依存しない。このような長寿命な発光減衰時間となる原因として、Above Barrier励起子の効果を考えた。半導体超格子では、高次の準位の方がミニバンド幅が大きくなる。これは、励起子の空間的な広がりが大きくなることを意味している。また、歪み超格子では、障壁層側にキャリアが局在する効果が報告されていることから、障壁層からのキャリア移動時間のために発光減衰時間が長くなったと考えられる。40nmと比較的大きいスペーサー層の試料でこのような結果が得られたことは、無理に近接した量子ドットを作製しなくても成長方向の伝導経路を形成できることを意味しており、光デバイス応用において重要な知見になりうると考えている。
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