原子核は少数核子(陽子と中性子)束縛状態であり、強い相互作用により束縛されている。しかし、クオークとグルーオンで記述された、強い相互作用の第一原理、量子色力学から原子核が構成されるかを理論的に検証する事は非常に難しい。大きな原因は、この理論の解析的な摂動論的計算が非常に難いためである。量子色力学には閉じ込めの性質があるため、第一原理から原子核を計算するには非摂動論的計算方法が必要である。本研究では、数値的に非摂動論的計算が可能な格子量子色力学を用いて、原子数が小さい原子核の中でも束縛エネルギーが比較的大きなヘリウム原子核に注目し、第一原理計算によりこの原子核が構成されるかを検証する事を目的とした研究を行った。 格子量子色力学を用いて原子核を研究する場合、一番の問題点は相関関数の計算コストが、核子や中間子の計算に比べ非常に大きくなる事である。ヘリウム原子核は、クォーク12体で構成されているため、その相関関数の計算には約五十万個のクォークダイアグラムが必要である。当該年度は、この膨大な計算コストを減らす方法を提案し、試験的な計算を行った。具体的には、核子の入れ替えの元で独立なダイアグラムを数え上げ、さらに効率的に相関関数を計算する方法を用いる事で、約千個の独立なダイアグラムからムリウム原子核相関関数が計算可能である事を示した。さらに、この方法を用いた試験的な計算を行い、クォーク質量が非常に重い仮想的なパラメータでの計算であるが、ヘリウム原子核が構成されている事を示唆する結果が得られた。
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