本研究では、素粒子・原子核・宇宙分野で現れる大規模な線形方程式や固有値問題を対象として、各分野で現れる解くべき問題の性質に応じてKrylov部分空間の特性を活かしたアルゴリズムの開発を行い、分野をまたがって共通性の高い数理的手法の構築を目指す。平成22年度は、平成21年度に行った研究をさらに発展させるとともに、そこで開発した手法を別の分野の問題にも適用し、適用範囲の拡大を図った。(1)前年度に開発した複数右辺ベクトルをもつ方程式に対するブロック型の高性能解法を、格子QCD計算の物理量計算に適用し、従来法に比べて高い性能が得られることを確認した。この解法は格子QCD計算以外でも複数右辺ベクトルが現れる問題であれば適用可能で、汎用性が高い。周回積分を用いた固有値解法においても複数右辺ベクトルが現れ、ここでも性能改善ができることが確認された。(2)格子QCD計算のall-to-all伝搬関数計算を対象として開発したシフト方程式解法を、原子核分野の殻モデル計算で現れる大規模固有値計算に適用した。この方法は従来広く用いられてきたLanczos法と比べて数値的な安定性が高く、とくに高いエネルギー状態で効率的に計算が行えることがわかった。(3)大規模な線形加速器設計で現れる非線形固有値問題に対して、高い並列性を持つ固有値解法を適用し、2048コアまでの性能評価を行った。また、超新星爆発のシミュレーションで現れる行列の性質を解析し、そこで現れる線形方程式の解法の検討を進めた。素粒子・原子核・宇宙分野で現れる各種の問題に対して、応用分野の研究者と協力して解法の開発を行い、各種の新規手法の開発を行うことができた。ここで得られた新規手法を基盤的なソフトウェアとして整備するためには、今後の継続的な開発と応用分野の研究者との密接な協力が不可欠である。
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