チャーモニウムと核子との間には、構成するクォークのフレーバーの違いから、クォーク交換に伴う相互作用が存在せず、主に多重グルーオン交換による相互作用、所謂カラー・ファンデルワールス力が支配的になると考えられる。そのため、核子多体系である原子核に対して、チャーモニウムはパウリ排他律に由来される短距離斥力効果を全く感じず、核子とのカラー・ファンデルワールス力が常に引力であることからチャーモニウムが原子核に束縛される可能性が高い。しかしながら、実際に束縛させるためにどのくらい大きな核子数の原子核が必要かは、核子-チャーモニウム間の二体相互作用の詳細に強く依ってくる。本研究では格子QCD数値解析により、核子-チャーモニウム間相互作用について研究を行った。今年度は、クォークの真空偏極を無視したクェンチ近似で、且つクォークの質量がパイオンの質量に換算して0.5-0.8GeVの比較的重いクォーク質量を用いた予備計算を行い、まず核子-チャーモニウム間ポテンシャルの導出に成功し、チャーモニウムが原子核に束縛されるための必要条件、「チャーモニウムと核子の間の相互作用がその相対距離に依らず常に引力的であること」をQCDの第一原理計算から確認できた。また、QEDの場合荷電中性粒子間に働くファンデルワールス力は摂動論により距離の逆ベキに比例する長距離力となることが知られているが、我々の数値計算によって得られたQCDにおけるカラー・ファンデルワールス力は、相対距離1fm近傍で指数関数的に遮蔽される短距離力であり、カラーの閉じ込めに関連する非摂動論的効果の重要性が示唆される。
|