研究概要 |
研究代表者は、強い相互作用の基本理論である量子色力学(QCD)を用いて、ハドロン間相互作用に対する理解を与える事に興味を持っている。これに向けて、本課題では、π、Kと呼ばれるハドロンの間の相互作用を取り扱った。πK系には、I=3/2,1/2の二種類の状態が存在し、これらは実験的にそれぞれ、斥力、引力を示す事が知られている。特に、πK(I=1/2)系に代表される引力系は、クォーク線が消失する過程を含んでおり、このため、格子QCDを用いた研究は技術的に難しい。本課題は、今後、この分野の試金石となる研究であると考えられる。ここでは、終状態のハドロンの内の片方を特定の時刻に固定する事で、この困難を解決し、πK系の両状態における散乱長の評価を行なった。当初の予定通り、平成21年度中に、m_pi=0.29-0.70GeVでの計算が完了したが、物理点近傍での情報を得るために、平成22年度前半に、m_pi=0.16 GeVでの計算も行なった。この領域において、通常のカイラル摂動論からのずれが見えており、格子間隔が有限である事の効果を取り入れたカイラル摂動論での解析が必要となった。この解析は、現在進行中であり、近日中に、最終的な結論を与える予定である。平成22年度後半において、有限の散乱運動量を伴う散乱位相の研究を行なった。当初、πK(I=1/2)系の散乱位相も評価する予定であったが、計算コスト軽減のために予定していたディラック演算子の固有値を用いる方法が有効でなかったため、平成23年度以降に持ち越しとした。しかし、πK(I=3/2),ππ(I=2),KK(I=1)系の計算は問題なく出来ており、これも近日中に論文として報告したいと考えている。
|