小腸壁の表面は、多糖類のゲルで覆われた凸凹表面からなっている。われわれは、表面が超凸凹なゲルからなるモデル小腸壁における生体物質の濡れのダイナミクスを解析、栄養吸収過程のモデルを構築する。本研究の成果は、小腸において栄養吸収を促進したり、腸内環境を改善する医薬品の開発につながるであろう。われわれは昨年度、小腸壁における濡れのモデルを構築した。本年度の成果は下記の通り。 (1)モデル小腸壁における濡れダイナミクスの解明:アルキルケテンダイマーというワックス表面の階層性凸凹構造を転写することにより調製したモデル小腸壁表面を水が濡れ広がる速度を解析した。その結果、平らな寒天ゲル上では接触角は時間tの-0.27乗に比例して減衰するのに対し、モデル小腸壁上では、-0.29乗に比例して減衰した。このことから、ゲル表面の凸凹によって濡れ速度が劇的に速くなることが明らかになった。 (2)凸凹表面における濡れ理論:濡れ現象は表面エネルギーが表面張力という力の次元に読み替えられて議論されてきた。しかし、同現象をより深く理解するためには自由エネルギーの立場から考察することも重要である。本年度は、固体表面に存在する柱状欠陥を液体が濡れ広がるモデルを構築することに成功した。
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