研究概要 |
本研究はソフトマターの代表的な物質である高分子材料について、その表面・界面における構造とダイナミクスを単一分子レベルで明らかにすることを目指している。本年度は高分子鎖に導入された単一の色素分子の三次元配向をデフォーカス顕微鏡法によってリアルタイムで観察し、単一高分子鎖の回転緩和ダイナミクスを評価した。蛍光色素であるペリレンジイミド分子を主鎖中央に有するメタクリレート系高分子を合成し、そのガラス転移点近傍における主鎖の運動性を調べた。まずガラス転移点(Tg)上での分子運動性を評価するため、ポリペンチルメタクリレート(PPMA, Tg=7℃)を20-30℃の範囲でデフォーカス観察を行った。その結果、個々の分子はランダムな回転運動を示し、その回転緩和速度定数は分子によって異なり、23℃においては0.2sec^<-1>にピークを持つ分布を示した。昇温とともに個々の高分子鎖の速度定数は一様に増加し、分子運動が活性化されることが分かった。次にTg近傍での分子運動を評価するため、ポリブチルメタクリレート(PBMA, Tg=20℃)について評価を行った。PBMAでは個々の分子が一定時間ランダムな回転を続けた後に運動を停止し、その後静止状態を一定時間継続した後に再び運動を始めるという間欠的な運動を示していることが分かった。温度依存性について検討したところ、すべての分子を平均的した回転速度定数は昇温とともに上昇したが、個々の分子について回転状態における分子鎖の回転速度定数を調べたところ、その値は昇温にも関わらずほぼ一定であることが分かった。一方、静止状態の継続時間は昇温とともに減少し、相対的に運動状態の時間が増加していることが分かり、これが平均の速度定数の温度依存性に寄与していることが明らかとなった。
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