本研究は高分子材料が構成するソフトな表面・界面について、その構造とダイナミクスを単一分子レベルの計測を通して明らかにすることを目指している。前年度は高分子鎖上に導入された色素分子の単一分子観察によって高分子鎖セグメントの局所運動について評価した。本年度は、高分子鎖一本全体のコンホメーションの直接観察を実現する手法の開発を行った。通常の光学顕微鏡を用いながらナノメートルスケールの空間分解能を実現するFIONA (Fluorescence Imaging with One-Nanometer Accuracy)を画像観察に応用することで、高分解能の蛍光イメージングを実現し、界面における単一高分子鎖の評価を行うことを試みた。ローダミンを基本骨核として有するフォロクロミック色素分子をポリブチルメタクリレート(PBMA)の側鎖に導入することで、蛍光性の高分子鎖を合成した。このフォトクロミック色素は蛍光性および非蛍光性異性体間の反応を制御することで、PBMA鎖上に導入された色素を一つずつ計測し、その位置を同定することで画像構成を行った。このような原理に基づく顕微鏡法を開発することで、高分子鎖一本のコンホメーションをおよそ15nmの空間分解能で評価することに成功した。本手法を用いることにより、超薄膜中における高分子鎖の拡がりを評価し、空間的に拘束された状態においては鎖間のからみ合いが低下することが示された。
|