研究概要 |
本研究では、高分子の相分離現象を駆動力として、表面特性を外部の湿潤状態に応答して変化する高分子を設計している。特に、疎水性かつ非晶性のポリ(トリメチレンカーボネート)(PTMC)に親水性高分子鎖あるいは機能性分子を導入することにより、基材表面を自在に親水化あるいは疎水化できることを見いだした。環状モノマーであるトリメチレンカーボネート(TMC)は、塩基性の有機触媒存在下において水酸基を開始点として開環重合が進行する。これを利用して、親水性高分子であるポリエチレングリコール(平均分子量2,000および6,000)の両末端からTMCの開環重合を行い親水-疎水型の高分子を合成した。得られた高分子をガラス基板にコーティングして、表面特性の一つである静的接触角測定を外部の湿潤環境を変化させながら経時的に追跡した。その結果、乾燥環境では接触角が60度を超えており、比較的疎水性であった。一方、湿潤環境に曝した後では、経時的に接触角が50度まで低下し、親水化することが明らかとなった。これらの結果は、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG)のように片末端にのみ水酸基を有する場合と比較して応答性が緩慢であった。これは、親水鎖の両端に疎水鎖であるPTMCが結合したことで親水鎖の運動性が束縛されたためであると考えられた。親水鎖の濃縮をさらに解析するために、mPEGを有する親水-疎水高分子を非極性溶媒に溶解し、極性溶媒であるメタノール中に滴下して高分子会合体を得ることを試みた。この結果、メタノールへの滴下時に超音波を連続的に照射するとともに撹拌することにより局分子コロイドが形成することが明らかとなった.得られたコロイドは、両溶媒であった非極性溶媒の流去後においても、1ヶ月以上にわたって分散安定性を有していた.このコロイドは極性溶媒中においてmPEG鎖がコロイドの最表面に濃縮していると考えられた。ここに有機色素であるベーシックブルーを溶解させたところ、コロイド内部に取り込まれたことにより、上澄み中の色素の吸光度が低下する現象を新たに見いだした。このことは、分子インプリンティング法への応用にあたり、テンプレート分子の抽出・除去の効率を高めることができると考えられた。
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