研究概要 |
高分子はバルクのみならず表面・界面として、また溶液として機能発現する材料である。高分子量であるため、機能発現のための構造変化にある程度の時間を必要としており、この高分子特有の緩和現象の改善が求あられている。特に分子運動性に基づく特性変換が迅速に誘起されれば、多様な応用に向けた展開が可能になる。本新学術領域研究では、水との接触を一つの外部刺激として捉え、高分子薄膜の高速親水化とこれに同期して特定の分子を溶液中から捕捉する基盤技術の検討を行った。これまでに非晶性の疎水性高分子鎖と親水性高分子鎖との共重合体において、表面の親水-疎水性の応答時間の向上を見いだしたきた。本年度は分子の取り込みを強化するための表面化学修飾について、モデルタンパク質を用いて検討した。高い分子運動性が期待される非晶性の疎水性高分手鎖を基盤とし、これに親水性高分手鎖あるいは疎水基、両親媒性分子を導入した高分子を創製した。具体的には、親水性高分子としてポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル(mPEG,平均分子量5,000および350g/mol)、疎水基としてコレステロール(CH)、両親媒性分子としてリトコール酸(LA)およびコール酸(CA)を選択した。それぞれの分子が有する本酸基から、環状モノマーデであるトリメチレンカーボネートを重合し、分子量が2-3万程度の種々の高分子を得た。タンパク質の固定化に必要となるカルボキシル基を持たないコレステロールを末端に有する高分子の場合では、ドライプロセスにおいて2.8・g/cm^2の固定化量であった。これは、化学的に固定化されたのではなく、物理吸着によるものと考えられる。アルブミンの単層飽和吸着量が約0.9・g/cm^2であると報告されているため、膜内部にもアルブミンが潜り込んでいることが示唆された。さらにコレステロールの場合、ウエットプロセスによって固定化量は増大した。コレステロール部が膜内部に潜り込んだため、表面近傍は非晶性のポリ(トリメチレンカーボネート)が濃縮しそおり、アルブミンの拡散経路が増大し、物理吸着が膜内部に広がったと考えられる。固定化の前に水に浸漬する処理を施すことにより、コレステロール誘導体が膜内部に潜り込む。この膜の膨潤の過程で、タンパク質溶液の透過経路が確保され、膜内部まで固定化が進行したと考えられる。以上のように、分子の膜への取り込みが単層吸着よりもはるかに高いレベルで達成でさることが明らかとなった。
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